
「認知症と診断されたら、もう遺言書は作れないのだろうか」「高齢の親が施設に入所しているが、公正証書遺言を作成できるのだろうか」と悩まれるご家族もいらっしゃいます。
認知症と診断されていても、必ずしも遺言書を作成できないわけではありません。重要なのは、遺言書を作成する時点で、ご本人が財産の内容や誰に財産を残すのかを理解し、自分の意思で判断できる状態にあるかどうかです。
公正証書遺言では、公証人がご本人の意思や遺言内容の理解状況を確認します。判断能力に不安がある場合には、医師の診断書や認知機能検査の結果、事前の面談記録などが参考資料となることもあります。
当事務所でも、これまでに公証人との相談を経て、医師の立会いのもとで認知機能検査を行っていただき、公正証書遺言の作成に至った事例があります。また、介護施設を訪問してご本人の意思や理解状況を確認し、その面談記録を公証人へ提出した経験もあります。
この記事では、認知症と遺言能力の関係、長谷川式簡易知能評価スケール、公証人による意思確認、介護施設での作成方法などについて、実際の対応経験を交えながら解説します。
葛飾区で遺言書作成を検討されている方は、まず全体像を「【葛飾区】遺言書作成完全ガイド」で整理しておくと安心です。

認知症と診断されている方でも、遺言内容を理解し、ご自身の意思で判断できる状態であれば、公正証書遺言を作成できる可能性があります。
民法第963条では、遺言者は遺言をする時にその能力を有しなければならないと定められています。この能力を「遺言能力」といいます。
遺言能力があるかどうかは、認知症という診断名や年齢だけで決まるものではありません。認知機能の状態に加えて、財産の内容、財産を渡す相手、遺言によって生じる結果などを、ご本人が理解しているかが重要になります。
例えば、日付や年齢を正確に答えることが難しい場合でも、それだけで直ちに遺言能力がないとはいえません。一方、日常会話が問題なくできていても、財産の分け方や遺言の結果を理解できない場合には、遺言能力が問題となることがあります。
そのため、公正証書遺言の作成に際しては、ご本人の状態を個別に確認し、必要に応じて医師や公証人と相談しながら準備を進めることが大切です。
なお、公正証書遺言で作成したからといって、遺言能力に関する問題が必ず解消されるわけではありません。作成時点で遺言能力がなければ、遺言が無効と判断される可能性もあります。

遺言能力を確認する際には、認知症の診断名や検査結果だけでなく、遺言者が実際にどのような内容の遺言をしようとしているのか、その内容を理解しているかが重要になります。
例えば、財産を特定の相続人にすべて残す場合と、複数の不動産や預貯金を多くの人に分ける場合とでは、理解しなければならない内容も異なります。そのため、ご本人の認知機能の状態だけでなく、遺言内容の複雑さなども含めて個別に確認する必要があります。

公正証書遺言の作成に向けた事前確認では、主に次のような事項を確認します。
これらは遺言内容の理解状況を確認するための主な事項であり、すべての質問に正確に答えられなければ遺言書を作成できないというものではありません。
また、財産の金額や不動産の所在地などを細かく記憶していなくても、資料を確認することで内容を理解できる場合があります。単なる記憶力の低下と、遺言内容を理解して判断する能力は、分けて考える必要があります。
ご本人への確認では、一度の回答だけでなく、質問の意味を理解しているか、回答に大きな矛盾がないかといった点にも注意します。
例えば、財産を渡したい相手について質問した後、別の聞き方で同じ内容を確認することで、ご本人の考えが一貫しているかを確かめる方法があります。
ただし、高齢の方は体調や疲労、面談する時間帯などによって、受け答えの状態が変わることもあります。そのため、回答の一部分だけを取り上げて判断するのではなく、面談全体の状況を記録しておくことが重要です。
また、家族が遺言書の作成を希望している場合でも、遺言をするかどうか、誰に財産を残すかを決めるのは遺言者本人です。事前面談では、可能な限りご本人自身の言葉で意思を確認することが大切になります。
認知症が疑われる方の公正証書遺言を作成する際には、本人の認知機能を確認する資料として、医師の診断書や認知機能検査の結果が参考にされることがあります。
その代表的な検査の一つが「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」です。
長谷川式簡易知能評価スケールは、記憶力や見当識などの認知機能を確認するための検査です。年齢、日時や場所の認識、言葉の記憶などについて質問し、その回答を点数化します。
30点満点で評価され、一般に20点以下の場合は認知症が疑われる一つの目安とされています。
ただし、この検査は認知機能の状態を把握するためのものであり、遺言書を作成できるかどうかを直接判定する検査ではありません。
長谷川式認知症スケールで点数が低かった場合でも、その結果だけで直ちに遺言能力がないと判断されるわけではありません。
反対に、点数が比較的高かった場合でも、遺言内容を十分に理解していなければ、遺言能力が問題となる可能性があります。
遺言能力については、検査結果に加え、ご本人の認知機能の状態、遺言内容の複雑さ、財産や親族関係の認識、遺言を作成する理由などを総合的に考慮する必要があります。
当事務所でも、医師の立会いのもとで長谷川式簡易知能評価スケールによる検査を行っていただき、公正証書遺言の作成に至った経験があります。具体的な対応については、後述する実際の事例で紹介します。
認知機能に不安がある方の公正証書遺言では、公証人から医師の診断書や認知機能検査の結果など、判断能力に関する資料の提出を求められることがあります。
ただし、すべての高齢者や認知症と診断された方について、必ず医師の診断書が必要になるわけではありません。
また、医師の診断書があれば必ず公正証書遺言を作成できるというものでもありません。医師による医学的な評価と、遺言内容を理解して判断できるかという遺言能力の問題は、必ずしも同じではないためです。
判断能力に不安がある場合には、公証人へ事前に状況を伝え、必要な資料や確認方法について相談しておくことが重要です。

公正証書遺言は、公証人が遺言者本人の意思を確認し、その内容を公正証書として作成する遺言書です。
認知症などによって判断能力に不安がある場合には、公証人がご本人と直接話をし、遺言の内容を理解しているか、自分の意思で財産の分け方を決めているかなどを確認することが重要になります。
公証人は、遺言者の本人確認を行うとともに、財産を誰に残したいのか、その内容が本人の意思に基づくものかなどを確認します。
特に認知機能に不安がある場合には、財産や家族関係の認識、遺言内容の理解状況などについて、ご本人への質問や会話を通じて確認することがあります。
また、公正証書遺言は、法律で定められた方式に従って作成する必要があります。原則として証人2名以上が立ち会い、遺言者が公証人に遺言の趣旨を伝え、公証人が作成した内容を読み聞かせるなどして確認したうえで、所定の手続きを行います。
なお、公証人が公正証書遺言を作成した場合でも、後に遺言能力が争われる可能性がなくなるわけではありません。そのため、作成時の本人の状態や意思確認の経過を、必要に応じて資料として残しておくことも大切です。
ご本人が質問に答えることが難しい場合や、説明している内容を十分に理解できない場合には、その状態のまま公正証書遺言の作成を進めることはできません。
一方、体調や疲労などによって一時的に受け答えが難しくなっている場合には、面談の日時を変更するなど、ご本人の状態に配慮することも考えられます。
認知機能の低下が疑われる場合には、事前に公証人へ状況を伝え、医師の診断書や検査結果、面談記録など、どのような資料が必要になるかを確認しておくとよいでしょう。
公証人との事前相談や資料の準備を行っても、必ず公正証書遺言を作成できるとは限りません。最も重要なのは、ご本人が遺言内容を理解し、自分の意思に基づいて遺言をすることです。

認知機能に不安がある方の公正証書遺言を作成する際には、公証人との打ち合わせに先立ち、ご本人がどのような遺言を希望しているのか、財産や家族関係をどの程度理解しているのかなどを確認しておくことが大切です。
当事務所では、遺言書作成のご相談に際し、ご本人との面談を通じて希望する遺言内容を確認し、必要な資料の整理や公証人との事前調整を行っています。
特に判断能力に不安がある場合には、ご本人の回答だけでなく、質問に対する反応や説明の様子なども記録し、必要に応じて公証人へ参考資料として提供することがあります。
事前面談では、まずご本人の家族構成や主な財産について確認します。
例えば、配偶者や子、兄弟姉妹などの家族関係をどのように認識しているか、不動産や預貯金などの財産を把握しているかといった事項です。
もっとも、財産の正確な金額や金融機関の口座番号まで暗記している必要はありません。資料を見ながら説明を受け、その内容を理解できるかどうかも確認します。
また、ご本人が説明した内容と、戸籍や不動産の登記事項証明書、預貯金に関する資料などを照らし合わせ、遺言書の作成に必要な情報を整理していきます。
財産や家族関係を確認した後は、誰に、どの財産を残したいのかについて、ご本人の希望を伺います。
例えば、特定の子に自宅を相続させたい場合には、その希望だけでなく、なぜそのように考えているのか、ほかの相続人がいることを理解しているかなども確認します。
ここで大切なのは、ご家族の希望とご本人の意思を混同しないことです。
ご家族から相談を受けた場合でも、遺言の内容を決めるのはご本人です。面談では、ご本人が自分の言葉で希望を説明できるかを確認し、周囲の方の意向によって回答が誘導されないよう配慮します。
判断能力に不安がある場合には、面談でどのような質問を行い、ご本人がどのように回答したかを記録しておくことが重要です。
当事務所でも、介護施設を訪問してご本人の意思や理解状況を確認し、その面談記録を公証人へ提出した経験があります。具体的な質問内容や記録方法については、次の対応事例で紹介します。
こうした記録は、公証人がご本人の状況を把握するうえで参考となる場合があります。ただし、行政書士による面談記録だけで遺言能力が証明されるわけではありません。
遺言書の作成に向けて、必要に応じて医師の医学的な評価や公証人による本人確認などを受けながら、ご本人の意思を丁寧に確認していくことが大切です。

認知機能に不安がある方の遺言書作成では、ご本人の状態や希望する遺言内容に応じた対応が必要になります。
当事務所でも、公証人や医師と相談しながら準備を進めた経験がありますので、ここでは実際の対応事例を、個人が特定されない範囲で紹介します。
過去に、認知機能に不安がある方から、公正証書遺言の作成についてご相談を受けたことがあります。
この事例では、公証人との事前相談を踏まえ、医師の立会いのもとで長谷川式簡易知能評価スケールによる検査を行っていただきました。
その後、ご本人の意思や遺言内容の理解状況などについて必要な確認を行い、最終的に公正証書遺言の作成に至りました。
認知機能検査の結果は、遺言能力を確認するための参考資料の一つであり、検査の点数だけで遺言能力が決まるものではありません。ご本人の状態や遺言内容などを踏まえて、個別に確認することが重要です。
別の事例では、介護施設に入所されている高齢の方の遺言書作成について相談を受け、ご本人との面談を行いました。事前に25項目の質問を用意し、家族関係、財産の認識、財産を残したい相手、その理由などを確認しました。
面談では、ご本人の回答やそのときの様子を手書きで記録し、合計5枚の面談記録を作成しました。その後、記録した内容を変更することなく、公証人へ参考資料として提出しました。
この事例では、遺言内容の確認に加え、ご本人が自らの意思で遺言を希望しているか、その内容をどのように理解しているかについて、できる限り丁寧に確認することを心がけました。
なお、面談記録を提出したことによって、公正証書遺言の作成や遺言能力が保証されるわけではありません。公証人による本人確認など、必要な手続きを経て作成を進めることになります。
認知機能に不安がある方の遺言書作成では、ご本人の意思を尊重しながら、個別の状況に応じた準備を行うことが重要です。

介護施設に入所している方や、病院に入院している方でも、公正証書遺言を作成できる場合があります。
公正証書遺言は、必ずしも遺言者本人が公証役場へ出向かなければ作成できないわけではありません。病気や身体的な事情などによって外出が難しい場合には、公証人に介護施設や病院などへ出張してもらう方法があります。
ただし、施設に入所していることや身体が不自由であることと、遺言能力の有無は別の問題です。公証人が施設へ出張する場合でも、ご本人が遺言内容を理解し、自分の意思で判断できることが必要になります。
公証人の出張を希望する場合には、事前に公証役場へ相談し、ご本人の状況や出張先、希望する遺言内容などを伝えます。
特に認知機能に不安がある場合には、事前に本人の状態を説明し、診断書などの資料が必要か、公証人がどのような確認を行う予定かについて相談しておくことが大切です。
また、施設や病院によっては、外部の方の訪問について事前の申請や日程調整が必要になることもあります。公証人や証人が訪問できる日時を確認し、落ち着いて意思確認ができる場所を確保しておくと、当日の手続きを進めやすくなります。
なお、公証人が出張する場合には、通常の公正証書遺言の作成手数料に加え、出張に伴う費用などが発生します。具体的な金額は、出張先や遺言内容などによって異なるため、事前に公証役場へ確認しておきましょう。
公正証書遺言の作成には、原則として証人2名以上の立会いが必要です。これは公証人が介護施設や病院へ出張する場合も同じです。
ただし、誰でも証人になれるわけではありません。未成年者、推定相続人や受遺者、その配偶者や直系血族など、法律上、証人になることができない人が定められています。
ご家族が証人になれない場合には、証人の手配について公証役場や遺言書作成を支援する専門家に相談する方法があります。
介護施設などで公正証書遺言を作成する場合も、基本的な準備は公証役場で作成する場合と変わりません。
まず、ご本人の希望する遺言内容を確認し、財産や相続人に関する資料を整理します。そのうえで、公証人へ必要な情報を伝え、遺言書の文案や必要書類について事前に打ち合わせを行います。
一般的には、次のような資料を準備します。
必要な資料は遺言内容や本人確認の方法によって異なりますので、公証役場の案内に従って準備します。
文案や日程の調整が整った後、公証人と証人が施設などを訪問し、ご本人の意思を確認したうえで、法定の方式に従って公正証書遺言を作成します。
なお、認知機能に不安がある場合には、準備を進めていても、本人の意思や理解状況を十分に確認できず、作成に至らないこともあります。
ご本人に無理のない形で準備を進めるためにも、早めに公証人へ相談し、必要な手続きや確認事項を整理しておくことが大切です。
認知症と診断されていても、遺言内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であれば、公正証書遺言を作成できる可能性があります。
診断名だけで作成の可否が決まるわけではありません。ご本人の認知機能の状態や遺言内容などを踏まえ、個別に確認することが必要です。
長谷川式簡易知能評価スケールの点数だけで、遺言能力の有無が決まるわけではありません。
20点以下は認知症が疑われる一つの目安とされていますが、遺言書を作成できるかどうかの基準ではありません。医師による評価や、ご本人が遺言内容を理解しているかなどを総合的に確認する必要があります。
ご家族が公証役場への問い合わせや必要書類の準備を手伝うことはできますが、遺言をするかどうか、誰に財産を残すかを決めるのは遺言者本人です。
遺言は本人の意思に基づいて行うものであり、ご家族が本人に代わって遺言の内容を決めたり、代理で遺言をしたりすることはできません。
手が不自由な方など、ご自身で文字を書くことが難しい場合でも、公正証書遺言を作成できることがあります。
公正証書遺言では、公証人が遺言内容を作成し、法律で定められた方法によって本人の意思を確認します。自署が難しい場合には、所定の方式に従い、公証人がその理由を付記するなどの対応が認められています。
ただし、文字を書けないことと、遺言内容を理解して判断できることは別の問題です。ご本人が意思を伝えることができるかも含め、事前に公証人へ相談しておくことが大切です。
医師の診断書があっても、公正証書遺言を必ず作成できるとは限りません。
診断書はご本人の健康状態や認知機能などを確認するための参考資料となりますが、遺言能力については、実際の遺言内容や作成時の本人の理解状況なども重要になります。
判断能力に不安がある場合には、公証人に事前相談し、必要な資料や確認方法を確認しておくことをおすすめします。

認知症や加齢によって判断能力に不安がある方の遺言書作成では、ご本人の意思を丁寧に確認し、必要に応じて医師や公証人と相談しながら準備を進めることが大切です。
東京都葛飾区金町の大塚法務行政書士事務所では、公正証書遺言の作成に関するご相談を承っております。ご本人の希望する遺言内容の整理から、戸籍や財産関係資料の収集、公証人との事前調整、必要書類の準備までサポートしています。
介護施設への訪問が必要な場合についても、ご本人の状況や施設の所在地などを伺いながら、対応方法をご案内いたします。
なお、認知機能に不安がある場合には、必ず公正証書遺言を作成できるとは限りません。ご本人の意思や理解状況を尊重し、無理のない形で準備を進めてまいります。
遺言書を作成できるか分からない場合や、介護施設に入所しているご家族の遺言書作成についてお悩みの場合も、まずはお気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
詳しい手続きについては「公正証書遺言の作成ガイド」や「葛飾区の遺言書作成完全ガイド」もあわせてご覧ください。

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・東京都葛飾区金町出身。平成21年の開業以来、15年以上にわたり地域に密着して遺言・相続・墓じまいのサポートを行う。行政書士のほか、一級土木施工管理技士の資格を有し、建設コンサルタントとしての実務経験もある。
『週刊新潮』『女性自身』『産経新聞』など、お墓の専門家として取材協力多数。 著書に『行政書士が教える墓じまい・改葬の進め方』(税務経理協会)がある。
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