
そう考えて、遺言書の作成を先延ばしにしている方も少なくありません。しかし、遺言書は、ご自身の意思を明確に伝えられる元気なうちに準備しておくことが大切です。
遺言書を作成するには、財産の分け方などを理解し、ご自身の意思に基づいて内容を決められる状態であることが必要だからです。
この記事では、遺言書の作成を考えたい時期、認知症などで判断能力が低下した場合の注意点、作成後に内容を変更する方法、エンディングノートとの違いを解説します。
葛飾区で遺言書の作成を検討している方は、作成方法や必要書類、費用などをまとめた「【葛飾区】遺言書作成完全ガイド」もご確認ください。

遺言書を作成するには、その内容を理解し、ご自身の意思に基づいて判断できる能力が必要です。
病気や認知症などによって判断能力が失われた後は、有効な遺言書を新たに作成することができません。ただし、認知症と診断されたことだけで、直ちに遺言書を作成できなくなるわけではありません。作成時点で遺言内容を理解し、ご自身の意思を明確に伝えられるかどうかが重要です。
公正証書遺言を作成する際、認知症や物忘れなどによる判断能力が心配される場合には、医師の診断書や「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」の結果などが、本人の認知機能を確認する資料として用いられることがあります。
当事務所が公証人と遺言書作成を進めた事例でも、本人の判断能力を確認する資料として、長谷川式簡易知能評価スケールの結果が確認されたことがあります。
長谷川式簡易知能評価スケールは30点満点で、一般に20点以下は認知症が疑われる一つの目安とされています。ただし、点数が低いほど認知機能の低下が疑われるものの、この点数だけで遺言書を作成できるかどうかが決まるわけではありません。
公正証書遺言では、公証人が本人と面談し、財産の内容や誰に財産を残したいのかなどを理解しているか、ご本人の意思として説明できるかを個別に確認します。必要に応じて、医師の診断書などの提出を求められることもあります。
軽度認知障害(MCI)の段階でも、遺言内容を理解し、ご自身の意思を明確に伝えられる状態であれば、遺言書を作成できます。
ただし、判断能力の状態には個人差があり、時間の経過とともに変化することもあります。物忘れなどが気になり始めた場合は、先延ばしにせず、早めに公証役場や専門家へ相談することが大切です。

遺言書を作成する時期に、決まった正解があるわけではありません。ただし、家族構成や財産、健康状態などが変わったときは、遺言書の作成や見直しを考える一つのきっかけになります。
ここでは、遺言書の作成を考えたい代表的な6つのタイミングを紹介します。
還暦、古希、喜寿などの年齢の節目は、これからの生活や家族への財産の残し方を考える良い機会です。
まずは、不動産、預貯金、保険、株式など、ご自身が所有する財産を整理してみましょう。そのうえで、財産の承継方法は遺言書に、葬儀や家族へのメッセージなどはエンディングノートにまとめる方法があります。
ご自身に万が一のことがあった場合に、残された配偶者の生活や住まいがどうなるのか心配になったときも、遺言書の作成を考えるタイミングです。
お子さんがいないご夫婦の場合、亡くなった方の父母がすでに他界していると、配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹が相続人になります。
遺言書がなければ、配偶者は兄弟姉妹や、その代襲相続人である甥・姪などと遺産分割協議を行う場合があります。配偶者に財産を残したい場合は、ご夫婦それぞれが元気なうちに遺言書を準備しておくことが大切です。
お子さんがいないご夫婦の相続については、「お子さんがいない夫婦の遺言書作成ガイド」で詳しく解説しています。
例えば、次のような場合です。
財産の内容が大きく変わったときは、現在の遺言内容と実際の財産が一致しているかを確認します。
不動産を複数人の共有にすると、将来の売却や管理について共有者間の調整が必要になります。誰に不動産を承継させるかは、預貯金など他の財産とのバランスや遺留分も含めて検討することが大切です。
特に、前婚の子がいる場合や、法律上の婚姻をしていないパートナーに財産を残したい場合は、遺言書の必要性が高くなります。
前婚の子と現在の配偶者などが相続人になると、普段交流のない方同士で遺産分割協議を行うことがあります。また、法律上の婚姻をしていないパートナーには、原則として相続権がありません。
遺言書によって財産の承継方法を定めておくことで、相続手続きの負担を軽減できます。
ご自身やご家族の入院、手術などをきっかけに、将来のことを現実的に考え、遺言書の作成を決意する方も多くいます。
公証役場へ出向くことが難しい場合は、公証人に病院、自宅、施設などへ出張してもらい、公正証書遺言を作成できます。出張による作成では、通常の手数料に加えて、日当や交通費が別途必要です。
ただし、体調や判断能力の状態によっては、希望する時期に作成できないこともあります。体調が悪化してから慌てて準備するのではなく、元気なうちに検討しておくことが大切です。
相続人同士が疎遠である場合や、財産の分け方について意見がまとまりにくいと考えられる場合も、遺言書の作成を検討したいタイミングです。
遺言書で財産の承継方法を具体的に定めておけば、その財産について遺産分割協議を行わずに相続手続きを進められます。
ただし、遺言書に記載されていない財産がある場合や、遺言内容が不明確な場合は、相続人による遺産分割協議が必要です。遺留分への配慮や遺言執行者の指定も含め、実際の相続手続きを進めやすい内容にしておくことが大切です。
どのような場合に遺言書の必要性が高くなるのかは、「遺言書が必要な人の特徴7選」でも詳しく解説しています。
遺言書を作成する目的や確認しておきたい内容は、年齢や家族構成、財産の状況によって異なります。ここでは、年代ごとの主なポイントを整理します。
30代から40代は、未成年の子どもがいる家庭も多く、ご自身に万が一のことがあった場合に、子どもの生活や財産を誰が支えるのかを考えておきたい時期です。
未成年の子どもについては、最後に親権を行う方が遺言書で未成年後見人を指定できます。また、配偶者と子どもの生活をどのように支えるかを考えながら、預貯金、不動産、生命保険などの承継方法を整理します。
住宅ローンがある場合は、団体信用生命保険に加入しているか、死亡時にローン残高がどのように扱われるかも確認しておくことが大切です。
50代から60代は、子どもが独立し、退職金の受取りや住宅ローンの完済などによって、ご自身の財産状況が整理しやすくなる時期です。
親の相続を経験し、その手続きの大変さから、ご自身の相続では子どもに負担をかけたくないと考えて、遺言書を作成する方もいます。
不動産、預貯金、保険、株式などの財産を整理し、誰に何を承継させたいのかを考える良い時期です。離婚や再婚などによって家族関係が変わった場合は、現在の相続人を確認し、遺言内容を見直す必要があります。
70代以降は、ご自身の健康状態や今後の生活を踏まえて、財産の承継方法を具体的に整理しておきたい時期です。
遺言書を作成するには、遺言内容を理解し、ご自身の意思を明確に伝えられる状態であることが必要です。判断能力がしっかりしているうちに、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いを確認し、ご自身に合った方法を選びましょう。
自筆証書遺言は、原則として本文を本人が自書する必要があります。長い文章を書くことが身体的な負担になる場合や、形式の不備が心配な場合は、公正証書遺言を検討する方法もあります。

遺言書は、書こうと思ったその日に必ず完成するものではありません。財産や相続人の確認、必要書類の収集、遺言内容の検討などに時間がかかります。
自筆証書遺言は、ご自身で作成するだけであれば、比較的短期間で準備できます。
ただし、相続人を確認するための戸籍、不動産の登記事項証明書、預貯金や株式などの財産資料を確認し、誰に何を承継させるのかを整理する必要があります。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、申請書の作成や保管申請の予約も必要です。
公正証書遺言は、公証人との事前打合せ、戸籍や財産資料の収集、遺言内容の確認、証人2人の手配などが必要です。
準備を始めてから完成するまでの期間は、財産や相続人の数、遺言内容、公証役場の混雑状況によって異なります。書類や内容がそろっている場合でも、数週間程度を見込んでおくと安心です。
入院や体調の悪化後に準備を始めると、必要書類の収集や公証人との面談を予定どおり進められないことがあります。特に公正証書遺言は、本人の意思確認、公証人との打合せ、証人の手配などが必要です。作成を希望する場合は、元気なうちに余裕を持って準備を始めることが大切です。
遺言書は、一度作成した後でも、ご本人が生きている間はいつでも内容を変更し、撤回できます。
遺言書には、作成してから何年までという有効期限はありません。何十年前に作成した遺言書でも、法律で定められた方式を満たしていれば有効です。
ただし、作成後に不動産を売却したり、財産を残す予定だった方が先に亡くなったりすると、遺言内容の一部を実現できなくなります。
また、結婚、離婚、再婚、相続人の死亡などによって家族関係が変わった場合は、現在の希望と遺言内容が合わなくなるため、内容を確認することが大切です。
遺言書は、ご本人が生きている間であれば、いつでも何度でも変更または撤回できます。
複数の遺言書がある場合は、単純に新しい遺言書のすべてが優先されるわけではありません。後に作成した遺言書の内容が、以前の遺言書の内容と矛盾する部分については、後の遺言書によって撤回されたものとして扱われます。
以前の遺言書のうち、後の遺言書と矛盾しない部分は、そのまま有効となります。
自筆証書遺言の内容を変更する場合は、新しい日付で遺言書全体を作り直し、以前の遺言を撤回する旨を明記しておくと分かりやすくなります。
古い遺言書が手元にある場合は、誤って使用されないように処分します。ただし、古い遺言書を破棄するだけでは、別の場所に保管されたものや写しが残っていることもあるため、新しい遺言書に撤回の意思を明記することが大切です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、必要に応じて古い遺言書の保管申請を撤回し、新しい遺言書を改めて保管申請します。
公正証書遺言を変更する場合は、公証役場で新しい公正証書遺言を作成できます。以前の遺言全体を変更する場合は、新しい遺言書に、従前の遺言をすべて撤回する旨を明記します。
新しい遺言書と以前の遺言書の内容が矛盾する場合は、その矛盾する部分について後の遺言書が優先されます。以前に受け取った公正証書遺言の正本や謄本を、公証役場へ返却する必要はありません。
自筆証書遺言と公正証書遺言の違いについては、「遺言書の選び方と種類・違いを比較」で詳しく解説しています。
エンディングノートと遺言書は、どちらも将来に備えて希望を整理するためのものですが、役割が異なります。
大きな違いは、遺言書には法律で定められた事項について法的効力があるのに対し、エンディングノートには原則として法的効力がないことです。

財産の承継方法や遺言執行者の指定など、法的効力を持たせたい内容は遺言書に記載します。
一方、葬儀や納骨の希望、家族への詳しいメッセージ、連絡してほしい方の一覧などは、エンディングノートにまとめる方法があります。
遺言書にも、付言事項として家族への感謝や財産の配分理由を記載できます。ただし、付言事項には法的な強制力がないため、法的な内容と気持ちを伝える内容を分けて整理すると分かりやすくなります。
遺言書を作成するときは、相続人の遺留分に配慮するとともに、遺言内容を実現する遺言執行者についても検討することが大切です。
兄弟姉妹以外の一定の相続人には、法律上確保された最低限の取り分である遺留分があります。
例えば、特定の相続人に全財産を相続させる遺言書を作成すると、遺留分を侵害された他の相続人から、侵害額に相当する金銭の支払いを求められることがあります。
この場合でも、遺言書そのものが直ちに無効になるわけではありません。ただし、遺言によって財産を取得した方が金銭の支払いを求められ、相続手続き後に新たな負担が生じることがあります。
遺留分侵害額請求には期限があります。相続が開始したことと、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないと、時効によって消滅します。また、遺留分の侵害を知らなかった場合でも、相続開始から10年を経過すると行使できなくなります。
遺言書を作成するときは、相続人と財産の内容を確認し、遺留分を侵害する内容になっていないかを検討することが大切です。
例えば、特定の相続人に不動産を承継させる場合は、他の相続人に預貯金などを承継させる方法や、遺留分侵害額を支払うための資金を準備する方法があります。
生命保険や生前贈与を活用する方法もありますが、金額、時期、相手方などによって遺留分の計算に影響するため、個別に確認する必要があります。また、付言事項に財産の配分理由を記載することもできます。ただし、付言事項に法的な強制力はなく、遺留分侵害額請求を防ぐことはできません。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。
遺言執行者を指定していない場合は、遺言内容や手続きの種類によって、相続人が協力して手続きを進める必要があります。相続人同士が疎遠な場合や遠方に住んでいる場合は、連絡や必要書類の準備に時間がかかります。
遺言執行者を指定しておけば、遺言内容に応じて、預貯金の解約や不動産の名義変更などの手続きを進めてもらえます。必要となる書類や手続きは、遺言書の内容、金融機関、登記の内容などによって異なります。
遺言執行者には、相続人や親族のほか、第三者や専門家を指定することもできます。手続き全体を管理する人をあらかじめ決めておくことで、相続人による連絡や書類準備の負担を軽減できます。
特に、相続人同士が疎遠な場合や、預貯金、不動産など複数の財産がある場合は、親族以外の方を指定する方法も検討できます。なお、相続人間に争いがあり、相手方との交渉や調停、訴訟などの対応が必要な場合は、弁護士への相談をご検討ください。
遺言執行者の役割、権限、選び方については、「遺言執行者とは?権限・義務・報酬相場」で詳しく解説しています。

ネット銀行、ネット証券、暗号資産、電子マネー、SNSアカウント、オンラインサービスなど、インターネット上で管理される財産や契約をデジタル遺産と呼ぶことがあります。紙の通帳や明細がないサービスも多いため、家族が存在に気づかず、相続手続きや解約が進まない原因になります。
ネット銀行や証券会社などの名称、口座の種類、契約しているサービスを一覧にし、エンディングノートなどに記録しておきます。
遺言書は、相続人や手続きに関係する方が内容を確認する書類です。そのため、ログインIDやパスワードを直接記載することは避け、必要な情報の保管場所が分かるようにしておくことが大切です。
スマートフォンやパソコンには、金融機関のアプリ、メール、連絡先、写真、各種サービスの情報が保存されています。家族が必要な情報の存在を確認できるように、端末の保管場所や、必要な手続きの確認方法を整理しておきます。
ただし、パスワードそのものを誰でも見られる場所に残すと、不正利用につながるおそれがあります。安全性と、死亡後に家族が確認できることの両方を考えて保管方法を決めることが大切です。
動画配信、音楽配信、オンラインストレージ、ソフトウェアなど、継続して料金が発生するサービスを一覧にしておきます。サービス名、料金の支払方法、問い合わせ先などを整理しておけば、死亡後に家族が契約内容を確認し、解約手続きを進めやすくなります。
ネット銀行、ネット証券、暗号資産などの確認方法については、「デジタル遺産相続の完全ガイド」で詳しく解説しています。

遺言書は、ご自身の財産を誰にどのように残したいのかを明確にし、相続手続きを進める家族の負担を軽くするための大切な準備です。
まだ早いと感じる時期でも、元気なうちに財産や家族の状況を整理しておけば、必要になったときに落ち着いて遺言書を作成できます。
認知症と診断されたことだけで、直ちに遺言書を作成できなくなるわけではありません。ただし、遺言内容を理解し、ご自身の意思を明確に伝える判断能力が失われた後は、有効な遺言書を新たに作成することはできません。
大塚法務行政書士事務所では、葛飾区を中心に、遺言内容の整理、公正証書遺言の原案作成、公証役場との事前確認、必要書類の収集、証人の手配、作成後の保管や遺言執行者に関するご相談に対応しています。
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・東京都葛飾区金町出身。平成21年の開業以来、15年以上にわたり地域に密着して遺言・相続・墓じまいのサポートを行う。行政書士のほか、一級土木施工管理技士の資格を有し、建設コンサルタントとしての実務経験もある。
『週刊新潮』『女性自身』『産経新聞』など、お墓の専門家として取材協力多数。 著書に『行政書士が教える墓じまい・改葬の進め方』(税務経理協会)がある。
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