
「遺言書を作成したので、これで自分が亡くなった後の手続きも安心だ」と考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、遺言書を作成しただけでは、その内容が自動的に実現されるわけではありません。預貯金の払戻しや財産の引渡しなど、遺言書に定められた内容を実行する人が必要になります。
遺言書はあるものの、金融機関から遺言執行者や必要書類について確認を求められ、手続きが進まない場合もあります。また、相続人同士が疎遠であったり、協力を得ることが難しかったりすると、遺言内容の実現に時間がかかることも考えられます。
このような場合に、遺言書の内容に沿って必要な手続きを行う人が遺言執行者です。
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するため、相続財産の管理、預貯金の払戻し、財産の引渡しなど、遺言の執行に必要な手続きを行う人です。
この記事では、遺言書作成や相続手続きを扱う行政書士が、遺言執行者の役割、権限、具体的な職務、報酬相場、親族を指定する場合の注意点、辞任や解任の手続きについて解説します。
葛飾区で遺言書の作成を検討している方は、遺言書の種類や作成手順をまとめた「【葛飾区】遺言書作成完全ガイド」もご確認ください。
遺言書を作成した方がよいケースについては、「遺言書が必要な人の特徴7選」もご確認ください。

遺言執行者とは、簡単に言えば「亡くなった方(遺言者)の意思を実現するために、遺言書の内容に沿って必要な手続きを行う責任者」のことです。
改正前の民法では、遺言執行者は相続人の代理人とみなされていましたが、2019年に施行された改正民法により、遺言内容を実現するために職務を行う立場であることが、より明確になりました。
現在は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条)」と定められています。
つまり、遺言執行者は特定の相続人の意向に従う代理人ではなく、遺言書の内容に沿って職務を行う「遺言の実現者」です。
この改正は非常に重要です。遺言執行者が選任されている場合、相続人は以下の行為ができなくなりました。
これを法的には「遺言執行の妨害行為の禁止(民法1013条)」といいます。相続人が遺言執行の対象となる不動産を勝手に処分した場合、その行為は原則として無効です。これにより、遺言執行者は、相続人全員の同意が得られない場合でも、遺言書の内容に沿って必要な手続きを進めることができます。
※補足:民法1013条では、相続人による遺言執行の妨害行為は原則として無効です。ただし、相手方が事情を知らない善意の第三者である場合、その第三者の権利が保護されることがあります。すべての取引を後から元に戻せるわけではない点に注意が必要です。

特別な国家資格は必要ありません。 未成年者と破産者を除けば、誰でも遺言執行者になることができます(民法1009条)。
※補足:未成年者・破産者かどうかの判断は、遺言執行が開始する時点(通常は遺言者の死亡時)の状態で判断されます。なお、過去に破産していても、免責許可決定が確定し復権している場合はなることができます。
しかし、「なれる」ことと「務まる」ことは別問題です。親族を遺言執行者に指定することもできますが、財産調査、相続人への通知、金融機関の手続きなど、相応の事務負担が生じます。相続人同士の関係や遺産の内容を踏まえ、親族に任せるか、専門家を指定するかを検討することが大切です。
遺言書の種類や選び方については、「遺言書の選び方と種類・違いを比較」もご確認ください。
遺言執行者に就任すると、相続人への遺言内容の通知、財産目録の作成・交付、任務の状況や終了後の経過・結果の報告など、重要な義務を負います。
このうち、相続人への遺言内容の通知義務は、2019年7月に施行された改正民法によって新たに設けられました。これらの義務を怠り、相続人や受遺者などに損害を与えた場合は、責任を問われる可能性があります。
遺言執行者が任務を開始したときは、遅滞なく、相続人全員に対して遺言の内容を通知しなければなりません。
実務上は、遺言執行者に就任したことを記載した通知書と、遺言書の写しを相続人に送付する方法が一般的です。これにより、相続人は遺言の内容と遺言執行者が任務を開始したことを確認できます。
遺言執行者は、相続財産を調査し「財産目録」を作成して相続人に交付しなければなりません。財産目録には、預貯金、不動産、株式などを記載します。遺言内容や相続財産の状況に応じて、借金などの債務についても確認します。
財産目録は、相続人が遺言執行の対象となる財産や手続きの内容を確認するための重要な資料です。
すべての手続きが終わったら、その経過と結果を相続人に報告しなければなりません。実務上は、「業務完了報告書」や収支計算書を作成し、遺言執行にかかった費用の明細や領収書の写しなどを添えて報告します。
※補足:遺言執行者には、民法1012条により委任に関する規定が準用されるため、任務の状況や終了後の経過・結果を報告する義務があります。
すべての遺言に遺言執行者が必要なわけではありませんが、遺言の内容によっては、遺言執行者がいなければ実行できない手続きがあります。また、法律上は必須でない場合でも、遺言執行者を指定しておくことで、相続手続きを進めやすくなります。
以下の事項が遺言書に含まれている場合、遺言執行者が必要です。遺言書で指定されていない場合は、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることになります。
・子の認知(民法781条) 婚姻関係にない相手との間に生まれた子を、遺言によって認知する場合です。遺言による認知の届出は、遺言執行者が行います(戸籍法64条)。
・相続人の廃除・廃除の取消し(民法893条) 相続人から虐待や重大な侮辱を受けたなどの理由により、遺言で相続人の廃除または廃除の取消しを求める場合は、遺言執行者が家庭裁判所への申立てを行います。

法律上、遺言執行者の指定が必須ではない場合でも、次のようなケースでは、遺言執行者を指定しておくことで手続きを進めやすくなります。
「お世話になった長男の配偶者に財産を遺したい」「公益団体へ寄付したい」といった場合です。遺言執行者がいない場合、財産の種類や手続先によっては、相続人の協力や追加書類を求められ、手続きが進みにくくなることがあります。
遺言執行者を指定しておけば、遺言内容に基づき、受遺者への財産の引渡しを進めやすくなります。
「自宅を長男に相続させる」など、特定の財産を特定の相続人に取得させる遺言がある場合も、遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容に沿った手続きを進めやすくなります。
前の婚姻による子と現在の配偶者との間の子がいる場合など、相続人同士が疎遠で、協力して手続きを進めることが難しいケースがあります。第三者の遺言執行者を指定しておくことで、相続人が直接手続きを進める負担を抑えながら、遺言内容に沿って手続きを進めやすくなります。
遺言執行者が行う具体的な実務の流れです。遺言書の内容に応じて、金融機関、法務局、証券会社などで必要な手続きを進めます。
就任を承諾した後、相続人全員に対して、遺言執行者に就任したことを知らせる通知書と、遺言書の写しを送付します。![]()
誰が相続人となるかを確認するため、遺言者の出生から死亡までの戸籍など、必要な戸籍を収集します。相続関係に応じて相続人の戸籍も確認し、相続関係説明図を作成します。![]()
預貯金、不動産、株式などの相続財産を調査し、「財産目録」を作成して相続人に交付します。遺言内容や相続財産の状況に応じて、借金などの債務についても確認します。![]()
手続きが終わるまで、遺産を適切に管理します。
遺言執行者には、遺言執行の対象となる財産を、善良な管理者の注意をもって適切に管理することが求められます。![]()
遺言書の内容に従って、預貯金の払戻し、財産の名義変更、受遺者への引渡しなど、必要な手続きを進めます。
【実務のポイント】遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が金融機関所定の書類を提出して、預貯金の払戻し手続きを行います。必要書類や手続方法は金融機関によって異なるため、事前に確認します。
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手続き終了後、遺言執行の経過や結果、収支などをまとめた完了報告書と計算書を作成し、相続人に送付します。
相続手続き全体のサポートについては、「相続手続き代行・遺産整理サポート」もご確認ください。
専門家に依頼する場合、誰に頼むかで費用は大きく異なります。それぞれの特徴と相場を比較しました。
信託銀行の遺言信託では、最低報酬額が設定されていることが多く、遺産総額に応じた手数料を加える方式が一般的です。
遺言執行に必要な報酬のほか、司法書士や税理士への報酬、不動産の売却費用などが別途必要になる場合があります。依頼する際は、基本報酬に含まれる業務の範囲と、追加費用の有無を確認することが大切です。
弁護士の遺言執行者報酬は、遺産総額の数%を基準とする場合や、最低報酬額を設けたうえで、財産の種類や手続きの難易度に応じて加算する場合があります。
相続人間に争いがある場合や、遺言の有効性、遺留分などについて法的な対応が必要となる場合は、弁護士への相談が適しています。
行政書士の遺言執行者報酬は、遺産総額の1%から3%程度を目安とする場合や、最低報酬額を設けたうえで、預貯金の払戻し、証券手続き、財産の引渡しなどの内容に応じて加算する場合があります。
相続人間に争いがなく、預貯金の払戻しや財産目録の作成、受遺者への財産の引渡しなどを行う場合に対応します。不動産の登記申請や相続税の申告が必要となる場合は、司法書士や税理士と連携します。
遺言執行者の報酬体系や、報酬に含まれる業務の範囲は、事務所や金融機関によって異なります。
報酬相場を比較するときは、遺産総額に対する割合だけでなく、最低報酬額、追加報酬、戸籍取得費、郵送費、交通費、司法書士や税理士への報酬などが別途必要になるかを確認することが大切です。
遺言執行者の報酬は、遺言書に定めておくことができます。遺言書に報酬の定めがない場合は、遺産の内容、職務の難易度、職務に要した期間などを踏まえ、家庭裁判所に報酬額を定めてもらうことができます。
「費用がかかるため、しっかり者の長男を遺言執行者にしておこう」と考える方もいらっしゃいます。
親族を遺言執行者に指定することはできますが、財産調査、相続人への通知、金融機関の手続きなど、相応の事務負担と責任が生じます。また、遺言執行者自身も相続人である場合は、他の相続人から手続きの進め方や財産管理について疑問を持たれることがあります。
長男が執行者になり、実家の通帳や権利証を預かったとします。すると、他の兄弟からこんな疑いをかけられることがあります。
遺言執行者となった親族が適切に手続きを行っていても、財産の内容や入出金の記録、手続きの経過について十分な説明がなければ、他の相続人から疑問や不信感を持たれることがあります。そのため、財産目録、領収書、振込記録などを整理し、手続きの経過を説明できるようにしておくことが重要です。
戸籍の広域交付制度や、金融機関による郵送手続きの利用により、以前より進めやすくなった手続きもあります。一方で、相続関係や財産の種類によって必要書類が異なり、記載漏れや不足書類があると、再提出が必要になります。
・銀行手続きの負担(平日対応):金融機関の窓口を利用する場合は、平日の日中に対応しなければならないことがあります。郵送で手続きできる場合でも、記載漏れや不足書類があると、再提出が必要になり、完了までに時間がかかります。
・戸籍の広域交付で取得できない戸籍: 戸籍の広域交付を請求できるのは、本人、配偶者、直系尊属、直系卑属です。兄弟姉妹や甥・姪の戸籍は広域交付の対象外となるため、本籍地の市区町村へ請求する必要があります。
相続人や財産の数が多い場合は、書類の取得や金融機関とのやり取りが重なり、手続きの完了までに数か月を要することがあります。
財産目録の作成義務や善管注意義務を怠り、相続財産を減少させたり、正当な理由なく手続きを放置したりした場合は、相続人や受遺者などから責任を問われる可能性があります。親族であっても、遺言執行者として必要な注意をもって職務を行うことが求められます。
遺言執行者が指定されていない場合や、指定された人が就任できない場合、就任後に辞任・解任が必要となった場合の手続きについて解説します。
遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が先に亡くなっている場合、就任を辞退した場合などは、相続人、受遺者、遺言者の債権者などの利害関係人が、家庭裁判所に「遺言執行者選任の申立て」を行うことができます。
申立先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。遺言内容や手続きの難易度、相続人同士の関係などを踏まえ、候補者を検討します。
遺言書で遺言執行者に指定されても、必ず就任しなければならないわけではありません。就任を承諾する前であれば、仕事、年齢、健康上の事情などにより、就任を辞退することができます。
一度就任した後に辞任するには、病気や長期不在などの正当な事由があり、家庭裁判所の許可を受ける必要があります(民法1019条2項)。
遺言執行者が任務を怠っている場合や、その他の正当な事由がある場合は、利害関係人が家庭裁判所に解任を申し立てることができます。単に相続人と意見が合わないという理由だけで、当然に解任できるわけではありません。
このような正当な事由がある場合は、相続人や受遺者などの利害関係人が、家庭裁判所に遺言執行者の解任を申し立てることができます(民法1019条1項)。
A. 不要です。 遺言執行者は遺言者の意思(または家庭裁判所の選任)によって決まります。相続人の同意は必要ありません。
A. 原則として、相続人は遺言の執行を妨げることはできません。民法1013条により、遺言執行者がいる場合、相続人は遺言執行の対象となる財産を勝手に処分するなど、遺言の執行を妨げる行為をすることが禁じられています。
ただし、遺言執行者が必要な報告をしない場合や、任務を怠っている場合には、説明や報告を求めたり、家庭裁判所に解任を申し立てたりする方法があります。
A. 遺言書に「その他一切の財産を長男に相続させる」などの定めがあるかによって、取扱いが異なります。このような包括的な定めがなく、遺言の対象となっていない財産が見つかった場合は、相続人全員による遺産分割協議が必要になることがあります。
なお、借金などの債務は、預貯金や不動産と同じように、相続人間の話合いだけで自由に分けられるものではありません。相続人間で負担者を決めても、その合意を債権者に対して主張できるとは限らないため、別途確認が必要です。
A. 遺言書に職務分担の定めがある場合は、その内容に従います。職務分担の定めがない場合、遺言執行者の職務は、原則として過半数で決定します。ただし、相続財産を守るための保存行為については、各遺言執行者が単独で行うことができます。
A. できません。 未成年者と破産者は、法律上、遺言執行者になることができません(民法1009条)。
A. 戸籍の取得費用、郵送費、交通費、登録免許税など、遺言の執行に必要となる費用は、原則として相続財産の負担となります。遺言執行者自身の報酬は、遺言書に定めがある場合は、その内容に従います。遺言書に定めがない場合は、家庭裁判所に報酬額を定めてもらうことができます。
A. 指定された人が遺言者より先に亡くなった場合、その人は遺言執行者に就任できないため、結果として遺言執行者がいない状態になります。遺言書のその他の部分まで無効になるわけではありません。
このような場合に備えて、「Aが遺言者より先に死亡した場合は、Bを遺言執行者に指定する」など、予備の遺言執行者を定めておく方法があります。
A. はい、拒否できます。 遺言で指名されても、強制ではありません。「仕事が忙しい」「高齢で自信がない」などの理由で辞退することは可能です。その場合は、相続人や受遺者などの利害関係人が、家庭裁判所に新たな遺言執行者の選任を申し立てることができます。

遺言書は「書いて終わり」ではありません。誰が遺言書の内容を実現するのかまで考えておくことで、相続手続きを進めやすくなります。
遺言執行者を指定しておけば、相続人への通知、財産目録の作成、預貯金の払戻し、受遺者への財産の引渡しなどを、遺言書の内容に沿って進めることができます。
ただし、親族を遺言執行者に指定する場合は、事務負担だけでなく、財産管理や手続きの進め方について、他の相続人へ説明する必要が生じることもあります。
家族に財産を残す一方で、相続手続きの負担や、遺言執行者をめぐる不信感を残してしまっては本末転倒です。
親族に任せることが難しい場合や、相続人が遠方にいる場合、財産の種類が多い場合には、第三者の専門家を遺言執行者に指定する方法もあります。
相続人同士の関係、財産の種類、手続きの難易度を踏まえ、誰を遺言執行者に指定するか検討することが大切です。
大塚法務行政書士事務所では、遺言書の作成サポートを行っております。葛飾区を中心に、地域に密着して15年以上、遺言・相続の手続きをサポートしてまいりました。
「遺言書を作りたいけれど、遺言執行者を誰にすればよいかわからない」「家族に手続きの負担を残したくない」という方は、無料相談をご利用ください。

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・東京都葛飾区金町出身。平成21年の開業以来、15年以上にわたり地域に密着して遺言・相続・墓じまいのサポートを行う。行政書士のほか、一級土木施工管理技士の資格を有し、建設コンサルタントとしての実務経験もある。
『週刊新潮』『女性自身』『産経新聞』など、お墓の専門家として取材協力多数。 著書に『行政書士が教える墓じまい・改葬の進め方』(税務経理協会)がある。
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