相続廃除と相続欠格の違いとは?|要件・手続き・遺留分への影響

相続廃除と相続欠格の違いとは?|要件・手続き・遺留分への影響

相続廃除と相続欠格の違いを比較し、それぞれの要件、家庭裁判所での手続き、遺留分や代襲相続への影響を分かりやすく解説します。特定の相続人に財産を残したくない場合の注意点も整理しています。
行政書士 大塚 博幸
行政書士 大塚 博幸

特定の相続人に遺産を渡したくない場合の「相続廃除」と「相続欠格」の違いを比較したイメージ
日本の民法には、一定の重大な行為をした相続人について、相続資格を失わせる制度として「相続欠格」と「相続廃除」が定められています。


相続欠格は、被相続人や他の相続人の殺害、遺言書の偽造・破棄・隠匿など、民法に定められた欠格事由に該当した場合に、法律上当然に相続資格を失う制度です。


一方、相続廃除は、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行があった場合に、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所の審判によって推定相続人の相続権を失わせる制度です。


両者は、対象となる行為、被相続人の意思の要否、家庭裁判所の手続きの有無などが大きく異なります。


本記事では、相続欠格と相続廃除の違い、要件、手続き、遺留分や代襲相続への影響について、分かりやすく解説します。


相続手続き全体の流れや期限を先に確認したい方は、「相続手続きの全項目一覧と期限」もあわせてご覧ください。



相続権に関わる2つの制度|「廃除」と「欠格」の根本的な違い

相続廃除と相続欠格の根本的な違い(被相続人の意思の要否)を解説する行政書士
特定の人物の相続権を制限する制度には、大きく分けて「相続廃除」と「相続欠格」があります。最大の違いは、「被相続人(亡くなる方)の意思が必要かどうか」、および「家庭裁判所の手続きが必要かどうか」にあります。


相続廃除と相続欠格の比較表
項目 相続廃除 相続欠格
根拠条文 民法892条・893条 民法891条
被相続人の意思 必要(廃除したいという意思が必要) 不要(当然に失格する)
家庭裁判所の手続き 必要(家庭裁判所の審判) 原則不要
主な対象行為 被相続人に対する虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行 殺害・殺害未遂、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿など
取消し 家庭裁判所への申立てにより可能 民法上、廃除のような取消制度はない
代襲相続 被相続人の子が廃除された場合はあり 被相続人の子や兄弟姉妹が欠格となった場合はあり


相続廃除の要件|どのような場合に認められるのか

相続廃除は、誰に対しても行える制度ではありません。また、単に「仲が悪い」「長年連絡を取っていない」といった事情だけで認められるものではありません。

対象となるのは「遺留分を持つ相続人」

相続廃除の対象となるのは、配偶者、子、直系尊属など、遺留分を持つ推定相続人です。


兄弟姉妹には遺留分がないため、遺言書で兄弟姉妹に財産を相続させない内容を定めれば、原則として兄弟姉妹に財産を取得させないことができます。そのため、兄弟姉妹は相続廃除の対象にはなりません。

廃除の原因となる行為

相続廃除の要件となる「被相続人に対する虐待・重大な侮辱・著しい非行」の解説イメージ
民法では、次のいずれかに該当する場合、被相続人は家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求できると定めています。

 
被相続人に対する虐待

身体的な暴力だけでなく、継続的に精神的苦痛を与える行為も含まれます。

 
被相続人に対する重大な侮辱

被相続人の名誉や尊厳を著しく傷つける言動です。

 
推定相続人のその他の著しい非行

被相続人の財産を無断で処分する行為、継続的な暴力や脅迫、過度な金銭要求などが問題となります。

 

ただし、これらの行為があれば必ず相続廃除が認められるわけではありません。行為の内容や程度、継続性、被相続人に与えた影響、行為に至った経緯などを踏まえて、家庭裁判所が個別に判断します。

【実務上の注意】不貞行為について

配偶者に不貞行為があったというだけで、直ちに相続廃除が認められるわけではありません。不貞行為の内容や期間、被相続人に与えた精神的・経済的影響、夫婦関係の経緯などを踏まえて、虐待、重大な侮辱またはその他の著しい非行に当たるかが個別に判断されます。


相続廃除の手続き|生前の申立てと遺言による廃除

相続廃除には、被相続人が生前に家庭裁判所へ申し立てる方法と、遺言書に廃除の意思を記載し、相続開始後に遺言執行者が申し立てる方法があります。


いずれの場合も、被相続人が廃除を希望しただけで相続権が失われるわけではありません。家庭裁判所が、虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行に該当するかを審理し、廃除を認める審判が確定する必要があります。

生前に相続廃除を申し立てる場合

被相続人本人が、家庭裁判所に推定相続人の廃除を申し立てます。


家庭裁判所では、当事者から事情を聴き、提出された資料などを踏まえて、廃除の原因があるかを判断します。


暴力や脅迫などが問題となる場合は、診断書、警察への相談記録、メール、手紙、録音、写真、日記などが、事実関係を確認するための資料となります。ただし、必要となる資料や廃除が認められるかどうかは、個別の事情によって異なります。

遺言によって相続廃除をする場合

被相続人は、遺言書に特定の推定相続人を廃除する意思を記載できます。


相続開始後は、遺言執行者が家庭裁判所に相続廃除を申し立てます。遺言による廃除を予定している場合は、相続開始後の手続きを円滑に進めるため、遺言書で遺言執行者を指定しておくことが重要です。


遺言執行者が指定されていない場合は、利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要があります。

遺言による相続廃除の記載例

遺言書による相続人廃除の手続きと遺言執行者の指定に関する重要書類
遺言書に相続廃除の意思を記載する場合は、対象となる推定相続人を特定し、廃除を求める理由を具体的に記載します。


次の文例は一般的な参考例です。実際には、事実関係や証拠の内容に応じて記載を調整する必要があります。

第〇条 遺言者の長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)は、平成〇年頃から継続して遺言者に対して暴言や脅迫を行い、令和〇年〇月〇日には遺言者に暴力を加えて負傷させるなど、遺言者に対する虐待および重大な侮辱を行った。よって、遺言者は、長男〇〇〇〇を推定相続人から廃除する。


第〇条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇〇〇(住所〇〇、職業〇〇)を指定する。


単なる不仲や性格の不一致だけでは、相続廃除は認められません。遺言書には、廃除を求める理由について、行為の時期、内容、継続性、被相続人に与えた影響などを、できる限り具体的に記載することが重要です。


ただし、遺言書に理由を詳しく記載しただけで廃除が認められるわけではありません。相続開始後、家庭裁判所が提出された資料や事情を踏まえて判断します。また、遺言による廃除を検討する場合は、遺言者本人の意思を明確に残し、方式上の不備を防ぐため、公正証書遺言による作成を検討するのが適切です。


遺言書の作成方法や注意点については、「遺言書作成完全ガイド」もあわせてご覧ください。


相続欠格の事由|法律上当然に相続権を失う5つのケース

法律上当然に相続権を失う「相続欠格」の5つの事由(殺害・遺言書偽造など)
相続欠格は、被相続人の意思とは関係なく、民法891条に定められた欠格事由に該当した場合に、法律上当然に相続資格を失う制度です。家庭裁判所による廃除の審判は必要ありません。


相続欠格に該当するのは、次の5つの場合です。

 
①被相続人や他の相続人を死亡させた場合

故意に被相続人、先順位の相続人または同順位の相続人を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた場合です。

 
②被相続人が殺害されたことを知りながら告訴・告発をしなかった場合

被相続人が殺害されたことを知りながら、これを告訴または告発しなかった場合です。ただし、その人に善悪を判断する能力がなかった場合や、殺害者がその人の配偶者または直系血族であった場合は、相続欠格には該当しません。

 
③詐欺や強迫によって遺言を妨げた場合

詐欺または強迫によって、被相続人が遺言を作成、撤回、取消しまたは変更することを妨げた場合です。

 
④詐欺や強迫によって遺言をさせた場合

詐欺または強迫によって、被相続人に遺言を作成、撤回、取消しまたは変更させた場合です。

 
⑤遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した場合

相続に関する被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄または隠匿した場合です。

 

ただし、遺言書を破棄・隠匿したという事実だけで、常に相続欠格となるわけではありません。判例上、相続に関して不当な利益を得る目的がなかった場合は、相続欠格に当たらないと判断される余地があります。


相続欠格は相続権を失わせる重大な制度です。欠格事由に該当するかについて当事者間で争いがある場合は、裁判による確認が必要となることがあります。


借金がある場合の対策は、相続欠格とは別の問題です。負債を引き継ぎたくない場合は、「相続放棄の手続きと注意点」もあわせてご確認ください。


相続廃除・相続欠格と遺留分の関係

特定の相続人が廃除・欠格となった場合の遺留分消滅に関する実務解説
特定の相続人が相続廃除または相続欠格によって相続権を失った場合、その本人は相続人ではなくなるため、遺留分も失います。そのため、廃除または欠格となった本人は、遺留分侵害額請求をすることができません。


ただし、被相続人の子が廃除または欠格となった場合は、その子である孫が代襲相続人となります。その孫が遺留分を有する場合には、遺言の内容によって遺留分侵害額請求の問題が生じます。


遺留分の範囲や計算方法については、「遺留分とは?侵害額請求権の基礎」もあわせてご確認ください。


代襲相続への影響|廃除・欠格となった人に子がいる場合

相続廃除・欠格時でも子や孫に権利が引き継がれる「代襲相続」の注意点
被相続人の子が相続廃除または相続欠格によって相続権を失った場合、その子、つまり被相続人から見た孫が代わりに相続人となります。これを「代襲相続」といいます。


たとえば、被相続人の長男が相続廃除または相続欠格となり、長男に子がいる場合は、その子が長男に代わって相続人となります。また、被相続人の兄弟姉妹が相続欠格となった場合は、その兄弟姉妹の子である甥・姪が代襲相続人となります。ただし、兄弟姉妹は相続廃除の対象ではありません。


一方、配偶者や直系尊属が相続廃除または相続欠格となっても、その人の子が代襲相続人になるわけではありません。そのため、特定の相続人を廃除しても、その人が被相続人の子である場合は、その子まで当然に相続権を失うわけではありません。


「特定の人だけでなく、その子にも財産を取得させたくない」と考える場合は、代襲相続と遺留分の両方を踏まえて、遺言書の内容を検討する必要があります。ただし、代襲相続人に遺留分がある場合は、遺言だけでその権利を完全に排除できるとは限りません。


相続人の範囲が複雑な場合は、戸籍を収集して相続関係を確認する必要があります。離婚や再婚、前婚の子がいる場合については、「離婚・再婚した時の相続人」もあわせてご覧ください。


相続廃除を検討する場合の相談先と事前準備

相続廃除を検討する際に弁護士へ相談し、関係資料を準備するイメージ
相続廃除は、家庭裁判所の審判によって推定相続人の相続権を失わせる制度です。


廃除が認められるかどうかは、問題となる行為の内容や程度、継続性、被相続人に与えた影響、当事者間の関係などを踏まえて、家庭裁判所が個別に判断します。


相続廃除を検討する場合は、家庭裁判所への申立てや法的な見通しについて、弁護士へ相談する必要があります。

相談前に整理しておきたい内容

弁護士へ相談する際は、虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行に当たると考える事情について、次の内容を時系列で整理しておくと、状況を伝えやすくなります。

  • 問題となる行為があった時期
  • 暴力、暴言、脅迫、金銭要求などの具体的な内容
  • 行為が続いた期間や回数
  • 被相続人が受けた身体的・精神的・経済的な影響
  • 警察、医療機関、自治体などへ相談した経緯

診断書、警察への相談記録、メール、手紙、録音、写真、日記などの資料がある場合は、内容と作成時期が分かるように準備しておきます。


遺言による相続廃除を希望する場合は、弁護士への相談内容を踏まえ、遺言書の作成方法や遺言執行者の指定についても検討します。


相続廃除以外に検討できる対策

相続廃除は、家庭裁判所が個別の事情を審理して判断する制度であり、被相続人が希望すれば必ず認められるものではありません。廃除の要件を満たすことが難しい場合は、遺言書などを利用して財産の配分を調整する方法も検討できます。

遺言書で財産の配分を定める

遺言書を作成し、特定の相続人が取得する財産を少なくして、ほかの相続人や受遺者へ多くの財産を残す方法があります。


ただし、配偶者、子、直系尊属には遺留分があるため、遺留分を侵害する内容の遺言書を作成すると、相続開始後に遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。財産の内容や相続人の関係を確認したうえで、配分を検討することが重要です。

付言事項で遺言の理由を伝える

遺言書の付言事項に、財産の配分を決めた理由や家族への思いを記載する方法があります。


付言事項そのものに相続分を変更する法的効力はありませんが、遺言者の考えを相続人へ伝えることができます。ただし、付言事項を書けば相続人間の対立を必ず防げるわけではありません。相手を非難する内容はかえって感情的な対立を深める可能性があるため、表現には配慮が必要です。

生前贈与を検討する

生前に財産を贈与する方法もあります。


ただし、生前贈与であっても、贈与の時期、相手、目的などによっては、遺留分を算定する際の財産に含まれることがあります。また、贈与税や相続税、不動産取得税、登記費用などが生じる可能性もあるため、税務上の影響を含めて検討する必要があります。


相続廃除以外の方法を選ぶ場合も、遺留分や税金への影響を確認し、家族関係と財産の内容に合った対策を検討することが大切です。


相続廃除・相続欠格に関するよくある質問

一度廃除した相続人を元に戻すことはできますか?

相続廃除の取消しや相続欠格について悩む方のイメージ
はい、できます。被相続人は、家庭裁判所に相続廃除の取消しを申し立てることができます。


生前に廃除した場合だけでなく、遺言による廃除についても、遺言で廃除を取り消す意思を示すことができます。この場合は、相続開始後に遺言執行者が家庭裁判所へ廃除の取消しを申し立てます。

相続廃除が認められるハードルは高いですか?

相続廃除は、相続人の権利を失わせる重大な制度であるため、単なる不仲、性格の不一致、長年の音信不通だけで認められるものではありません。


虐待、重大な侮辱、その他の著しい非行に当たるかどうかについて、行為の内容や程度、継続性、被相続人に与えた影響、当事者間の関係などを踏まえて、家庭裁判所が個別に判断します。

相続欠格になると、ほかの相続にも影響しますか?

相続欠格は、欠格事由に関係する被相続人の相続について、相続資格を失う制度です。一度相続欠格となったからといって、将来発生するすべての相続について、永久に相続人になれなくなるわけではありません。


たとえば、特定の被相続人の遺言書を偽造したことにより相続欠格となった場合は、その被相続人の相続権を失います。また、相続欠格には、相続廃除のように家庭裁判所へ取消しを申し立てる制度はありません。欠格事由に該当するかについて争いがある場合は、裁判で確認されることがあります。

まとめ|相続廃除・欠格は慎重な検討が必要な制度です

円満な解決に向けた遺言書の配分調整や付言事項の活用についてのまとめ
相続廃除と相続欠格は、いずれも相続人の相続権に直接影響する制度ですが、成立する要件や手続きは異なります。


相続欠格は、民法に定められた欠格事由に該当すると、法律上当然に相続資格を失う制度です。一方、相続廃除は、被相続人の意思に基づき、家庭裁判所の審判によって推定相続人の相続権を失わせる制度です。


単に関係が悪い、長年連絡を取っていないといった事情だけで、相続廃除が認められるわけではありません。また、被相続人の子が相続廃除または相続欠格となった場合は、その子である孫が代襲相続人となる点にも注意が必要です。


相続廃除を検討する場合や、相続欠格に該当するかについて争いがある場合は、早めに弁護士へ相談する必要があります。


一方、相続廃除以外の方法として、遺言書による財産の配分、付言事項、生前贈与などを検討できる場合があります。ただし、遺留分や税金への影響があるため、財産の内容や相続人の関係に応じた準備が必要です。


葛飾区金町の大塚法務行政書士事務所では、2009年の開業以来15年以上にわたり、相続に関するご相談に携わってきた実務経験をもとに、戸籍収集による相続関係の確認、財産内容の整理、遺言書の原案作成、公正証書遺言を作成する際の公証役場との事前確認などを行っています。

  • 「特定の相続人に財産を残したくない」
  • 「自分の意思をどのような内容で遺言書に残せばよいか分からない」

といった場合は、相続関係や財産の内容を確認したうえで、遺言書による財産の配分方法についてご案内します。状況に応じて、必要な専門家(弁護士等)への相談が望ましいケースについてもご案内いたします。


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大塚法務行政書士事務所 代表行政書士 大塚 博幸
 

行政書士 大塚博幸(遺言・相続・お墓の専門家)
・東京都葛飾区金町出身。平成21年の開業以来、15年以上にわたり地域に密着して遺言・相続・墓じまいのサポートを行う。行政書士のほか、一級土木施工管理技士の資格を有し、建設コンサルタントとしての実務経験もある。

 
主なメディア実績

『週刊新潮』『女性自身』『産経新聞』など、お墓の専門家として取材協力多数。 著書に『行政書士が教える墓じまい・改葬の進め方』(税務経理協会)がある。


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